アイツんなかのアクアリウム

「ふつう」の青年の頭の中を駆け巡っているサカナたち。そのスケッチ

電話嫌いの電話3本。おもろいつながりは黒い板切れから

電話嫌いをこじらせて何年目かの晩秋。対面で話すのは初対面の人とでも大好き。知っている人との電話は嫌じゃない。ただ、スマホが大きな音とともにブルブル震え始めて、どんな声が出るともわからない相手に応答しなくてはいけない瞬間、あれは嫌だ。それでも、未知の相手との会話は未知の情報との繋がりになるかもしれない。そしてその情報は私を豊かにしてくれるかもしれない。そんなことを考えさせれられた電話が3本あった。今日はその3本の電話について書いていこうと思う。

1本目 1円奨学金の合格通

電話はいつも突然にかかってくる。知らない番号だった。そも、私が覚えている番号は自分のものを除くと母校の電話番号と東大和市役所の電話番号だけだーーどちらもよく使うし特徴があって覚えやすい。朝だった。甘くとろけるような眠気が支配する緩やかな時間が一変、私の心拍数は大きく上昇した。未知との遭遇。緊迫感。その日に来そうな宅急便には心当たりがない。ましてや知らない番号から連絡を受ける機会などなおさらだ。私は一度でも連絡した人間は電話帳としてスマホに名前を覚えさせる。だから、知らない番号からかかってくる機会は限られている。

おそるおそる画面のボタンをスライドして応答する。7コールくらい待たせてしまっただろうか。「おはようございます。大変お待たせしました。森です」一息で言い切った。挨拶は基本中の基本。電話でも一緒。それに対して相手の開口一番。「おはようございます。新造真人です。おめでとうございます。1円奨学金の合格通知です」。ぴたり、と。時間が止まるような感覚に陥った。人生でも経験する数が少ないであろう努力が結ばれる感覚。そう、あれだ。応答前の緊張で上がっていた心拍数が更に上がる。頭の中は既に数々の結びつかないはずだった情報を整理するのにいっぱいいっぱいで、言葉を紡ぐ余裕なんて残っていなかった。数拍あけてなんとか言葉をつなげる。「本当ですか......うれしい.......」

1円奨学金とは現代アーティストの新造真人さんが今年の秋に創設した奨学金だ。支給額は毎月1円。返済義務は、ない。毎月振込み料金がかからないLINE Payで支払われる。奨学金応募に対するハードルを限りなく下げること、奨学生に選ばれるという自信・愉快な志を持った他者との接触を促すこと。それから「1円ってww。やっすwwwwww!!」と思った人に対して個人奨学金の創設を促すという目的を持って創設された。私自身奨学金をいずれ作りたいと思っていたことと、面白そうだなという直感で申し込んだ。申し込んだと言っても当日の夜に思い立って数時間かけて文章を作成しただけだ。文章の質は私に言わせれば、まあ、ひどかった。話は散り散りだし、最後の5分で取って付けたような結論を書くような文章。あまりにもひどいと思いながらも、申し込むだけ申し込もうと思っていたから羞恥心を殺して提出した。これがひとつ。選ばれないと思っていた理由だ。

選ばれないと思っていた理由は他にもある。1円奨学金の選考は2段階に分けていると言われていた。書類審査とzoom会議による面接だ。本合格の通知は11月7日を予定していたから、6日までに面接をしていなければ合格するはずがなかった。なんの連絡がなく終わったその日の晩、私は少し悔しくなった。受かるとは思っていなくても落ちたら悲しいのだなぁと感じたのを覚えている。そして数日経っても音沙汰がない。ああ、落ちたんだなと納得していた。そう、あの電話がかかってくるまでは。

結局、どういうことだったのか。真人さんによると予想以上に審査に時間がかかったらしい。応募は25名。きっとそれぞれの文章や作品を読むのにかなりの時間を費やしたということだろう。そしてその関係からzoomの面接は取りやめることにしたと。連絡が遅れたのも審査に時間がかかったかららしい。なんてハラハラさせる運営だろう。私は新たなコミュニティに属することができる喜びを感じながらも、真人さんの人となりが気になった。ついったで調べればすぐにでてくる。TEDで話していたり、名刺がスタイリッシュだったり。人生を楽しみながら生きているのだなと感じた。最近はコーラを作っているらしい。今度飲んでみようかしら。

そんなわけで新しく私の肩書に「新造真人奨学金第1期奨学生」というものが加わった。年額12円の儲け。とは言え私は選考用の文章に3時間近くを費やした。金銭だけで言ったら損だ。もっと言おう。私は生活保護の受給者であるために毎月収入報告を書かなくてはいけない。普通に勤労で得た収入なら時給とか交通費とかを書くだけだからわかりやすい。ただ、オンラインのお金で1円って......。正直扱いに困る。しかし書かないと調査とでバレたときが面倒くさい。不正受給ということで受給資格を剥奪されてしまうかもしれないのだ。なんだかババ抜きでジョーカーを引いたような感覚。ゲームはおもしろくなるけれど、ちょっと扱いに困る。この手間分を超えるような恩恵をこのコミュニティから得られればよいのだが。それは私の努力次第なのかもしれない。なんにせよ面白くなりそうだ。

2本目 Newtakのzoom会議

学生団体Newtakというものに入った。参加者は大体高校生で「本質を捉える力を身につけ、やりたいことに全力を注げる世界」の実現に向けて動いている。そのためにバーチャルの世界も使えるようにするとかしないとか.......。今の時点では決まっていないことも多い。これから新しいものを作っていくのだという面白さを胸に、突き進んでいく。そういった団体なのだろう。高校生というのもあるし、果敢に挑戦していくのは良い経験になると思う。私もそのような経験が今からできること、すごい高校生たちと関わることができることで気分が上がっている。

この間zoomによる会議があった。以前からSlackとかLINEで報告を受けたりはしていたけれど、所詮相手は文字とニックネームだけの存在。質量・熱量を持って会話をすることは難しい。アノニマスな人と話していた。それがzoom会議で秘密のベールが剥がされた。画面に映されたのは全国いろいろな地域の仲間。それぞれの声のトーンやイントネーション、話題のセレクト。みんなが実際に目の前で話しているようだった。オンラインでここまで繋がれるのだなと思ってテクノロジーの凄さに改めて脱帽した。そして、その話し手達もものすごい。

代表の布川拓人は奨学金を獲得して現在イギリスに留学中。他の学生団体の代表もやっているようだ。志望校はケンブリッジだとか。ユーモアがあって、勉強だけでなくて運動もできるという。そして社交的。なんておもしろい人なんだろう。他にもいろいろな学生団体と連携してイベントを主催する高校2年生がいたり、ボランティアで聞いたことのないような国に<私の勉強不足かもしれないが>外来種駆除をした人がいたり。そうそうたるメンバーで始まったという感じだ。聞いてみるともともとはWEINという団体からNewtakに移ってきた人が多いのだとか。きっとそこにもおもしろい高校生が沢山いるのだろう。学生でも高校生でもない私としては少しだけアウェー感。それでもこれから1つのものを作っていく仲間なのだ。楽しくやっていきたい。

会議では雑談もすれば、教育に関する議論も多く展開される。.......私は教育に興味があると言いつつあまり関連する書籍は読んでいない。わからないことだらけだから、自然と質問を多くすることになる。疑問を投げかけることもあれば、あえて対立するような意見を言って議論を深めることを試みたりすることもある。自分がこのコミュニティにどのように貢献できるのか。それは自分の経験にもとづくちょっと変わった価値観の提供と、質問していく能力なのではないかと思う。精一杯頑張りたい。

挑戦するという意味でもこの団体はおもしろいが、ここで出会える高校生たちは面白い人が多い。そも、高校生にして学生団体があるということを知っていて参加しようとしているのだから、私が今までよく関わったきた高校生と比較してエネルギッシュに感じる。どんな人がいるのかわからない状態で飛び込んだ団体だったからどんな人が出てくるかわからなかった。けれど大当たりを引いた感じがする。ピア・ラーニングとでも言うのだろうか。同世代の面白い人との交流の中から生じる化学反応も含まれた学習の体系を作りたいと思った。

3本目 TwiCallでつながって.......

TwiCallというサービスを知っているだろうか。簡単に説明するとついったのアカウントを使って通話できるサービスだ。利用の流れは、ついったのアカウントを登録する→TLに募集ついーとを流す→作業等をしながら誰かが来るのを待つ→通話するというものだ。簡単に使える上に貧弱WiFiでも通信制限下でもそこそこ快適に使える。普通の電話はいつかかってくるのか、そもそもかかってくるのかさえわからないことが多い。TwiCallはかかってくる可能性があるとあらかじめ心構えができる。けれど、誰が来るのかはわからない。そんな未知の人との遭遇に期待をのせて利用してみた。

今までの利用で4人の人と通話した。マッチング率がどのくらいなのかは知らないが、かなりの高確率で誰かが来てくれる。会話の内容・相手は実に様々。ベトナムに住む中学生であったり、フランスからの帰国子女だったり、ついったの相互の人だったり。絡みはあるけど声を聞くのは初めて、なんて人もいた。内容も勉強の話、大学進学の話、麻雀、政治、近々行われる文化祭の話など多岐にわたる。自分の知らなかった世界を知れてとても面白い。リアルでこのような人たちと話そうとしてもそもそも接点がないだろう。

TwiCallは知らなかった人同士をつなげ、今ある繋がりを更に強固にすることに一役買いそうだ。誰と繋がるかわからないのは少し怖いが、話してみると皆おもしろい。人はその数だけ独自の経験をする。それを数十分の会話で共有したりする。私は最近寂しさを感じていて、それを埋める目的もあって<ほとんどは好奇心から>利用しはじめた。あとから知ったことだが、TwiCallを出会い系として使う人も一定数いるそうだ。私はグループホーム世話人さんに寂しさを感じていると告白した。パートナーとかが作れると良いねとのことだった。たしかに。出会いが少ないこの時勢と私の生活圏では割と有効な出会いのツールなのかもしれない。

散財ばかりして知人と洋服購入デート<?>することができなくなってしまった。お金の使い方と生活リズムの改善は私のなかで結構大きな課題になっている。その先にあるのはのっぺりとした平凡な毎日なのかもしれない。読書、学びに加えてついったとTwiCall。これらが日常にアクセントを与えてくれるのかなと思った。最初に私は電話が苦手だと言ったが、それは匿名のいきなりかかってくる電話に対する苦手意識に過ぎないのだなと思った。心構えさえできてしまえば、声で話すほうが楽だしたのしい。自分の得意なこと、好きなことに少しずつ気づけて嬉しい。TwiCallはこれからも利用するのでよろしければぜひお話しましょ。


楽しい電話、嬉しい電話、予想外な電話。これらはスマホを通して展開された。未知と繋がる機会には案外簡単に作れる。それに気付くにはまずトライすることなのだと思った。このサカナ<思想>のオーナー、もりきよのついった。餌<コメント・いいね>がほしい。サカナたちが喜ぶ。