アイツんなかのアクアリウム

「ふつう」の青年の頭の中を駆け巡っているサカナたち。そのスケッチ

天才後輩Sとの対談。目的と自己と

一昨日、久しぶりに母校を訪れた。理由はお世話になったJETの先生が米国に帰国すると聞いたことと、チェコ留学が決まったりょーたと会って話したかったからだ。あと1つ、高校の後輩に勉強を教えるサポートティーチャーへの合否を聞きに行くというのもあったが、これは大した話ではない。

JETの先生とはかなり話し込むと思ったが、たいして話も弾まず早々に切り上げることになった。というのも卒業式のときに大方サヨナラは言い終わっていて、新しく加える必要もないと思ったからだ。互いに近況報告をして、将来の話を軽くしたりした。

りょーたとは午前中から国分寺で買い物をした。フェイスガードを買ったり、勉強の話になって、参考書を見たりした。こちらも正直話すことは少ない。事前にLINEでたくさん話しておいたというのもそうだし、大部分が友人同士の砕けた会話だったからだ。それに、彼とは飛ぶ前にもう一度会う約束をしている。

彼らとの会話は楽しかったが、その日最大の学びはその後に待っていた。

それは後輩との会話だった。母校に来たのだから後輩と話をしたいなと思って、とある後輩にLINEを飛ばしたのがきっかけだった。

後輩の名前はSだ。量子力学に興味を持っている<研究者レベルの知識を持つ>高校3年生。私の元同期の2人の知人と4人集まって、麻雀をたまにする仲だ。知り合ったのは昨年の秋頃だったように思う。きっかけは私が部活内で後輩と話しているときに、米国進学の話をしたことだ。Sの高校の研究仲間が海外大進学を目指していて、その流れでよく話すことになった。ちなみに研究分野はゼーベック効果だから、Sの興味とは関係が薄い。Sは普段は寡黙な性格らしいが、私と話すときは興奮した様子で量子力学の話だったり、人間関係の話等をしてくれた。

出会った当時はとにかく私の知らない考え方のプロセスを持っていることが衝撃的だった。ここから先は訳のわからない記述ばかりになるかもしれない。なぜなら、私はSの言う考え方のプロセスを理解半ばで消化不良を起こしているからだ。一応私なりにSの言ったことを解釈をしてこの文章を書いている。それでも伝わるかわからない。ただSは間違いなく一種の天才であると思っている。

私からSを見たときに特に特異な点は2つあると思っている。「特に特異」。意味が重なっていると思うだろうか。これはわざとだ。一般から見たとき、Sの好奇心であったり、俯瞰する能力などは非常に発達していると思う。これらを除くためにあえて、「特に特異な」という表現を使わせてもらう。

その2つの能力は「精神の宮殿」という思考の枠組みと、常に目的ありきで行動する能力だ。

この文章を読んでいるあなたは「記憶の宮殿」という言葉を知っているかもしれない。私の身の回りにはメモリースポーツのアスリートが多い。

記憶の宮殿とは記憶術を使うときに利用するツールの一種で、記憶したいものをおいていく場所を言う。詳しくは検索してほしいが、簡単に言うと自宅等の馴染みある場所のイメージの中に買い物リスト等覚えたいことを順に置いていくと覚えやすいといったものだ。これを利用してトランプ52枚の順番を記憶したり画像を記憶したりする、メモリースポーツをやる人達がいる。

Sの精神の宮殿はこれとは異なる。彼は記憶の宮殿は精神の宮殿に組み込まれたシステムの1つだと言っていた。精神の宮殿では思考実験だったり、シミュレーションを主に行うらしい。そして、知識、特に物理関係のものの視覚化もできると言っていた。

この視覚化というのが私にとっては驚きだった。私はこれに近いことを言語を介してやっているが、Sはそれを直接イメージでやっているようなのだ。

私の場合にも、ものを見たときに少し意識することで関連する言葉であったり、事象が思いつくということはある。

だが、彼のものとはまるで別物だ。彼はものを見たときに関連する数式であったり事象が、ポップアップ通知のように見えるという。

私のものがランダムな連想的と言うならば、Sのものは体系的で網羅的なのだ。共感覚に近い物だと言っていた。

そして、彼は精神の宮殿の「開放」を行うらしい。このとき彼の知識は総動員され、様々な組み合わせを試したり、物事を結びつけたりするという。この作業には相当エネルギーを使うらしく、立ちくらみを起こすことがしばしばあるが、最近になってそれも抑えられるようになったと言っていた。

一昨日は視覚化というのがどのくらいの濃さなのかという話をした。私は意識して視覚化したとしても、飛蚊症のようなイメージ。影映しのときにできる像くらいの濃さだ。その点彼のイメージはとても濃い。人がイメージ上を通っても、性別はわからないと言っていた。

Sのこの視覚化は彼の学習効率の向上に一役買っているように思う。

カリキュラム通りの学習など正直Sには合っていないと思うが、学んだことが毎回視覚化されるのならば復習も少くて済むだろう。というより毎回復習していると言えるか。

Sの能力は既存のものを学ぶと言うよりは新たなものを生み出すのに向いていると私は思う。

光子の振る舞いをイメージしたりも容易にできるし、未解決の量子力学の問題に対して仮説を作ったと言っていた。弦理論などの論文を英語で読んでいて、それもイメージに落とせるらしい。今では大学の教授とのコネを作り、建設的な議論もできているようだ。今の実力では数式で証明できないが、その力を大学でつけたいと意気込んでいた。

彼は今独学でジークンドー合気道を併せたような武術を学んでいると話していた。教材はYouTubeだ。相手がどのように来るかを視覚化して、それにどう対応するかをイメージして体を動かしていると言う。

Sは運動もできる。多才だし、好奇心のカバーする範囲も広い。そうであるからこそ彼の創造性、関連付けと視覚化を支える精神の宮殿はとても稀有なだけでなくポテンシャルの高い能力だ。

次に、彼の特異な能力の2つ目。徹底した目的ありきの行動。

人は自分のあり方にどのくらい自律的になれるのだろうかと考えたことがあるだろうか。高校から大学にって、こんな企業に就職できたらいいな、という業種までは考えられている人はいると思う。それから、ネットでビジネスをする人はイメージ戦略が大事だから気を配るだろう。

私はどちらかといえば衝動的で、プランを立ててそのとおりにできたことはほぼ無い。気分の移ろいが激しいし、注意もすぐに逸らされてしまう。

その対極にあるのがSのあり方なのではないかと思う。例えばSは自分のキャリアの設計に能動的だ。もっと普遍的な言い方をすると、彼はほぼ毎瞬間目的の手綱を握って、行動している。

Sは今後の5年の流れを考え尽くしている感じがした。

Sにとって現在最も可能性の高い進路は指定校推薦で公立大に進むこと。そのために3年の一学期には評定平均4.5を出して、指定校の基準に間に合わせた。それに選考に漏れても公募に切り替えると言っていた。そのための布石も既に打ってある。zoomで行われた学校説明会で質問をして教授とのコネを作る。実際にキャンパスを訪れて在校生に質問する。しかし、在校生では答えられないから教授が引っ張り出されてくる、その流れで研究室の見学をするなどなど。彼は戦略的に受験に向き合っている。といっても全力でというわけではなく、余力でやっているように見える。

公募で落ちたら一般で受けるが、受からなくても構わないと彼は続けた。彼の生まれ故郷であるカナダか母の住む韓国に行こうとしているという。実力を有していて論文を発表していれば大学から声がかかるだろうという目論見だ。

彼の今の目的は大学に入ること。その目的は物理の研究をするということ。その後は世界的な財団が運営する研究施設に入りたいと言っていた<私はその研究所の名前を失念してしまった>。それがしっかりと定まっているからこそ今自分が何をするべきかを実行できるのだと思う。もっとも、Sほど能力があって思索を巡らせられるからという条件はあるが。

キャリアの構築の他にもう1つ例がある。Sは自分の人格形成においても目的ありきの思考法を使っていた。

彼は実験的に漫画やアニメのキャラクターのトレースをすることがあったようだ。サイコパシーの高いキャラの場合もあれば友好的なキャラの場合もあっただろう。真似をする中でそのキャラの気持ちもトレースすることができるようになったという。それぞれのキャラを演じていて良かったことや悪かったことを挙げて、理由を分析する。それを最善化するのに今の性格に落ち着いたらしい。心理学のテクニックを用いたりして相手を誘導することもあると言っていた。振る舞いも目的に合わせて変えているのだ。

Sには独特の落ち着いた雰囲気がある。それも設定して作られた後天的なものなのかもしれない。

そんなSと話しているうちで、私は「目的が常に優先順位の上位にある感じだよね。極端な言い方をすると目的が行動を支配している感じ。その状態を保てるのはなぜか」と訊いた。

Sに言わせると、目的と言っても絶対的なものではなくて自分で変えられるものであるし、目的と対話してるようなものだと言う。

これには私も納得した。Sほどの人間が目的に支配されて脳死状態で突っ走るということは考えられなかったからだ。

ある意味でSは好奇心の赴くままに問を発して、それを目的として動き続けているようだ。

対話的に目的と常に関わって成長すること。私自身これが苦手だから今のような状況にあるといえる。ここを補って成長していきたいと思う。

Sは精神の宮殿とそれに伴う視覚化、目的ありきで常に行動することで、異彩を放っている。しかし、これは生まれ持っての能力ではないと彼は言っている。

Sの精神の宮殿、目的ありきの人格づくりは高校に入ってからの作業だと彼は言っていた。もっとも、物理に興味を持ち始めたのは中学の時に親友の死を経験したときかららしい。

訓練の賜物か、生来の才能の開花かはわからないが、彼の能力は目覚めた。私もそれに続きたい。

余談だが、実は高校でもSは成績は良い方ではなかったらしい。このコロナで休みになる時期に独学で高校の範囲の勉強をして、皆に追いついたと言っていた。

Sの稀有な能力と偶然重なったコロナの長期休み。ここで彼のキャリアが開けたことを祝い、将来の活躍を期待したい。

なぜ私はSと話せる仲になっているのだろうか。彼ら天才と触れるたびに少し臆してしまう。ただ、これも自分の成長を促す導きなのだと信じて、できる限り成長していきたい。

例えば、Sからは目的ありきの行動の重要性を学べた。精神の宮殿の建設と視覚化の訓練も知ることができたら実行できるかもしれない。それに、現実的なところでは、いまからでも目的ありきの行動規範を設定することは可能だろう。私の場合なら、行動した後に後から合理化やフィードバックを行うところから始めたらいい。

読者の方にも天才と話せた興奮を伝え、少しでも良い影響を与えられていたら幸いだ。


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